めまい

メニエール病Meniere's disease

メニエール病について

  • めまい発作を繰り返します。発作は10分~数時間程度です
  • めまい発作に伴って、聞こえづらさ、耳鳴り、耳の詰まり感が起こります
  • 病態は内リンパ水腫が考えられています
  • 治療として投薬・生活指導・中耳加圧治療などが行われます

メニエール病とは

メニエール病は、「めまい発作を反復する。めまいの持続時間は10分~数時間程度」「めまい発作に伴って、難聴、耳鳴、回転性めまいなどの聴覚症状が変動する」、「聞こえとめまいの神経以外に神経の症状がない」などの特徴を有する病気です。病態として、内リンパ水腫(内耳がむくむことにより不安定になる)が考えられています。

【画像】メニエール病とは

診断

メニエール病の診断は症状と検査所見から行います(下表)。

【画像】メニエール病の診断基準

Aの1-3およびBの1-4を満たすとメニエール病確実例となり、Aの1-3のみ満たす場合はメニエール病疑い例となります。めまいがなく聴覚症状のみのメニエール病非定型例(蝸牛型)や、めまいのみで聴覚症状がないメニエール病非定型例(前庭型)もあります。

治療

治療は①急性期、②間欠期の2つに分けて考えます。

【急性期】
めまい発作がひどい場合は、めまい、悪心、嘔吐等の症状緩和を目的に、抗めまい薬や点滴の治療を行います。また急性難聴が生じた場合は、ステロイド剤を中心とした薬物治療を行うことがあります。

【間欠期】
めまい発作の予防を目的とした段階的治療を行います。当科では、第1段階の保存的治療と、第2段階の中耳加圧治療を主に行っています。

  • 1.保存的治療
    薬物治療と生活指導を行います。薬物治療では、内リンパ水腫の軽減を目的として、利尿薬や漢方薬を主に用います。また、メニエール病の発症、増悪にストレスが関与しているとの考えがあることから、ストレス軽減を目的とした生活指導を行います。
    【画像】保存的治療
  • 2.中耳加圧治療
    保存的治療に抵抗する難治性メニエール病の方には、中耳加圧装置を用いた中耳加圧治療を行います。中耳加圧装置を貸し出して、自宅、仕事場などで1日2~3回を目安に装置を用いた治療を行います。
    中耳加圧治療を行う条件として、以下の項目を満たす必要があります。
    1. 保存的治療に抵抗する難治性メニエール病である
    2. 毎月決められた受診日に受診できる
    3. 外耳・中耳に炎症・傷がない
    4. 装置を適切に管理・操作できる
    【画像】中耳加圧治療
  • 注):中耳加圧治療はめまい発作の抑制を目的としており、難聴・耳鳴りへの治療効果は認められておりません。

良性発作性頭位めまい症Benign paroxysmal positional vertigo

良性発作性頭位めまい症とは、寝起きや寝返りなど、頭を動かした時に激しいめまいが生じる病気です。めまいの時間は10秒~数分と短いものの、突然起こる激しいめまいに恐怖を感じる人も少なくありません。また、頭を動かさないような動作(歩行など)でもフワフワとした感覚がしばらく続くこともあります。

原因

耳の奥には、三半規管、耳石器と呼ばれる平衡感覚のセンサーがあります。それぞれの内腔は、リンパ液と呼ばれる液体で満たされています。リンパ液は頭の動きに同期して素早く動き、感覚細胞を適切に刺激することで平衡感覚を維持しています。

良性発作性頭位めまい症は、耳石器で作られた耳石(カルシウム粒子)の一部がはがれ、三半規管内に迷入することで生じるとされています。迷入した耳石は三半規管内のリンパ液の中を浮遊していて、頭を動かすと浮遊した耳石も動き、これがリンパ液の動きに影響を与えます。耳石はゆっくり動き、リンパ液もゆっくり動くようになります。このため、頭を動かし終わった後、数十秒にわたって感覚細胞を誤って刺激し続けるためにめまいを感じます。

【画像】良性発作性頭位めまい症イメージ画像【画像】良性発作性頭位めまい症イメージ画像

治療

良性発作性頭位めまい症に対する治療法として、浮遊した耳石を元の場所(耳石器)に戻す運動療法が有効と考えられています。一方で、薬には浮遊した耳石を溶かしたり、耳石器に戻す作用は期待できないことから、薬物治療は効果が薄いと考えられています。

(注)運動療法を行う際は、転倒や持病の悪化(特に首や腰)に気を付けながら行いましょう!

前庭神経炎Vestibular neuritis

前庭神経炎について

  • 突然起こる回転性めまいで発症し、めまいは24時間以上続きます
  • 安静時の回転性めまいは、数日~1週間程度で徐々に良くなります
  • 後遺症として、体動時のふらつきが残ることがあります
  • 早期のリハビリは、ふらつきの改善に効果があるとされています

前庭神経炎とは

前庭神経炎は、「突然起こる回転性めまい」、「回転性めまいのあとに体動時のふらつきが持続する」、「めまいと同時に難聴や耳鳴りなど耳の症状が出たりしない」「めまい以外の神経症状がない」などの特徴を有する病気です。原因としてウイルス感染の可能性が指摘されていますが、はっきりしたことはわかっていません。

経過

ある日突然起こる回転性めまいで発症します。めまいの強さに応じて嘔気・嘔吐が生じ、発症当初は歩けない程です。また、多くは24時間以上続きます。これは片側(稀に両側)の前庭(三半規管や耳石器、前庭神経)機能が高度に障害されるためで、めまいと同時に難聴や耳鳴りが出現・悪化することはありません。
安静時の回転性めまいは脳の働きにより1週間程度で治まります(静的前庭代償)。徐々に動けるようになると、次に体動時のふらつきが目立つようになります。体動時のふらつきは、次第に治ってくる人と治らずに持続する人がいます。

体動時のふらつきが続く理由には

  1. :前庭機能低下
  2. :動的前庭代償不全
の両者が関与しています。健康な人は、歩いている時に体や頭が上下しても視界はブレません。これは前庭の働きにより、頭の動きに反応して目を反射的に動かすからです(前庭動眼反射)。前庭神経炎により前庭機能が低下し、前庭動眼反射が障害されても動的前庭代償が適切に働けばふらつきを感じませんが、機能が回復せずかつ動的前庭代償が働かないと、体動時のふらつきが続くのです。

【画像】体動時のふらつきイメージ画像

診断

前庭神経炎は、症状の問診と検査から診断します。
まず問診を行い、前庭神経炎を疑う症状が無いか確認します。

【画像】前庭神経炎を疑う症状
【画像】診断

次に検査を行います。めまい発作時であれば眼振検査を行い、眼振が出ていることを確認します。また、温度刺激検査やvideo Head Impulse Test(vHIT:右上図)を行い、片側又は両側の前庭機能の低下を確認します。当クリニックでは、このvHITを前庭神経炎患者に定期的に行うことで、最初の診断だけでなく、前庭機能が回復するかどうかを確認します。また聴力検査や脳のMRIを適宜行い、難聴や脳の病気が無いかを確認することもあります。

治療

治療は①急性期、②亜急性期、③慢性期の3つに分けて考えます。


【急性期】
回転性めまいがひどい急性期は、めまい、悪心、嘔吐等の症状緩和を目的に、抗めまい薬や点滴の治療を行います。また、前庭機能の回復※1を期待してステロイド剤を投与することがあります(※1:前庭神経炎において、ステロイドが前庭機能の予後を改善させるかどうかについて明確な答えは出ていませんが、すでに他の多くの内耳疾患において、ステロイドによる治療が広く行われています)。


【亜急性期】
発症後数日経過すると、前庭代償の働きにより、激しいめまい発作は次第に軽くなっていきます。この亜急性期になるべく早く離床し、積極的に動き回ることが、動的前庭代償※2を獲得する上で重要です。但しこの時期はかなりふらつくため、無理な運動により転倒事故を起こさないように注意が必要です。(※2前庭の神経機能が回復しやすいということではありません)


【慢性期】
前庭機能が回復した場合には、一般に慢性期の治療は不要です。しかし前庭機能が回復せず、かつ動的前庭代償不全があると、体動時のふらつきが後遺症として残ることがあります。体動時のふらつきが遷延する場合、薬物治療や前庭リハビリテーションを行います。